2021.11.26

ICONIC ALL-ROUNDER : ROLF BENZ 594 BY SEBASTIAN HERKNER 後編 (2020年インタビューより)

セバスティアン・ヘルクナーは、アイコニックなデザインのことをとても良く理解しています。おそらくこれを裏付ける最も明白な根拠は、世界を代表するインテリア見本市「メゾン・エ・オブジェ・パリ」で「Designer of the Year 2019」に輝いた注目のデザイナーであるということでしょう。そのセバスティアン・ヘルクナーがデザインした新しいハイバックシート「Rolf Benz 594」は、バランスのとれた湾曲した背もたれ、しっかりと布張りされたシートシェルを持ち、心地よく柔らかなシートクッションを備えた快適なシーティング家具で、座る人をやさしく抱擁しているかのように見えます。

 

オッフェンバッハにある彼のスタジオで、インスピレーションや持続可能性、そしてこれらのニューノーマルな生活と仕事について話しました。

あなたご自身やあなたのお仕事に影響を与えたロールモデルはいますか?

特定のデザイナーや人を挙げるのは難しいです。誰かをうっかり忘れてしまうかもしれませんし。ですからここでは、私たちのデザインを最高な形で商品化する職人について語りたいと思います。

Rolf Benz の職人の仕事は素晴らしく、彼 らのノウハウは信じられないほど豊富で、世代から世代へと受け継がれていま す。このような仕事こそが模範的です。ここドイツでは幸いにもマイスターの育成制度があります。これは貴重な文化的資産であり、大変有難いことです。

成功されているデザイナーの多くは、ベルリンに移り住んでいます。一方で、あなたは13 年前にオッフェンバッハにデザインスタジオを開設しました。オッフェンバッハがあなたにとって最適な場所である理由は何ですか?

確かに、オッフェンバッハより魅力的な街はあるかもしれません。どちらかとい うと「二目惚れ」する街でしょうか。小さな街で、全体が見渡しやすい。 私にとっては居心地の良い場所です。私のホームグラウンドです。友人もいます。それに加えて、オッフェンバッハは多文化な街でインスピレーションに溢 れています。この街ではさまざまな文化が息づいている素敵なショップや飲食店が密集しています。またヨーロッパのど真ん中に位置していて、空港にも近く、 好立地です。私は幸いにも多くの場所を訪問する機会があります。ブラックフォレスト地域にあるRolf Benz社には電車で簡単にアクセスできます。ヴェネツィアも日帰りで行けますし、パリの見本市にも簡単に行けます。これは大きな魅力 です。もちろん今ではCovid-19 によって状況は大きく変わりました。最近では、電話で話したり、スカイプやズームで打ち合わせすることが多くなりました。しかしそれも問題ありません。おかげで、ここ数カ月でオッフェンバッハを再発見することができました。例えば、近くのファーマーズマーケットでも良い買い物ができることとか。それがまた私の生活の質を高めています。

あなたはよく世界を旅していますね。特に心惹かれた国はありますか?

旅ができることは一つの特権です。私はそれを満喫しています。子供の頃は、シュトゥットガルトの両親とクリスマス市に行くのが一番のイベントでした。今では行動範囲が広がり、台湾やコロンビアに行くこともありま す。それはワク ワクしますよね。

でも実はどれだけ遠くに行くかは重要ではないと思うんです。大事なのは、その土地で出会った人たちや、その土地ならではのもの。私は旅をするとき、いつも特別なものを発見したいと思っています。 レコードのように、街のB 面を発見したいのです。それが面白い。それは台北でもドイツのウルム市でも同じです。遠くに行く必要はありません。そのためには、どこにいてもよく観察をすることが大切です。今、Covid-19 は、私たちに身近な場所を再発見するチャンスを与えてくれています。私はそのチャンスを生かしているのです。

セバスチャン・ヘルクナーの作品を特徴づけるものは何ですか?あなたにとって 重要なことは何ですか?

私は素材感、色あい、品質、そしてクラフトマンシップに特に注意を払っています。この時代、人々にとって「品質」と「耐久性」が再び重要になってきているようにみえます。また「持続可能性」も重要視されてきています。これは良いことです。私は、流行を取り入れて半年後には捨てられてしまうようなものは作りたくありません。私が作りたいのは、末永く使えるものです。一生付き合っていける、そして次の世代にも喜んでもらえるようなものが理想的です。そのためには修理が可能な、張りぐるみ家具だと張り替えが可能な製品であることも大切です。

私たちの資源はますます少なくなっていきます。今までの考え方を変えて、これからは物事を全体的に見なければなりません。Rolf Benz が素晴らしいのは、地元のブラックフォレスト地域で製造をしているということ。短距離で効 率良く、そしてもちろん、持続可能な品質レベルを維持しているということです。

あなたのデザインは、さまざまな社会的・文化的文脈から特徴を解釈し、ユニー クな個性を持つ工芸品を生み出しています。Rolf Benz 594 アームチェアはどのような点を考慮して作られたのですか?

毎日の生活はますます慌ただしくなっています。

私たちはAからBへの移動を急ぐあまり、周りを意識しなくなっています。そして仕事のプロセスもどんどん 加速しています。常に携帯電話、ノートパソコンやタブレットを手にしている私たちの生活は、ますますデジタル化しています。そしてものを肌で感じることを失いつつあります。

このハイバックチェアは、この風潮への答えとして寛ぎの場所を与えるためにあります。それは本物で、実際に手に触れられるものです。 キーワードは「コクーン」。完全に身を任せられる場所。身を委ね、いつでもそこに戻ることができる場所。自分の世界に入り、深呼吸ができる場所。ここでは 寛いだり、考え事をしたり、一眠りしたり、本を読んだり、もちろんメールチェックやネットサーフィンをするのにも最適な場所です。

あなたの受賞リストは信じられないほど長いですね。「デザイナー・オブ・ザ・イヤー 2019」を受賞した感想と、肩書きや賞はあなたにとってどれほど重要なのでしょうか?

もちろん、表彰されたことは認められたということです。特にチームが、会社が、そして製品開発に費やされたすべての労力と努力が。

でも私は、#SebastianHerknerのハッシュタグがつけられ、Instagramなどで自分の作品を発見するのが好きです。製品がどこで使われて、どのような関連で掲載されて、どのような人が購入したかが見えるからです。あるいは、どうしてもその商品が欲しくて貯金した人までも。その背景にある物語が興味深く、私にとってこれがより重要なのです。またホテルに泊まったときに、ふと自分の作ったテーブルを見つけたときも嬉しいですね。これが私にとって最高の瞬間です。

革新的なデザインを生み出していないときは、何をしていますか?

創造性は私にとって情熱です。ですから、私は仕事を仕事ではなく、どちらかというと特権だと思っています。なぜなら自分の好きなことだけをしているから。それはバラエティに富んでいて刺激的です。8 時間働いて疲れて帰ってくるようなことはありません。自分が楽しいと思えることをしていれば、何事もずっと楽 です。

良いデザインは世界を変えることができますか?

世界を変えるためには、必ずしも良いデザインが必要なわけではありません。しかし、デザイナーには大きな責任があると思います。デザイナーは、モノがどの ように使われるかに影響を与えることができます。またそのものがどのようにリサイクルされるか。私としては、1シーズンだけ棚に置かれ、2 年後にはゴミとなってしまうような流行品を作ることは望んでいません。

私たちデザイナーには、ある種の責任があると思います。 その結果、私たちは世界を少しずつ変えていくことができるのです。消費をより少なく、その分より良いものを。買う量を減らし、より品質の良い物を買う。それだけで世界は変えられると思うので す。もちろん、デザイナーだけではできません。しかし、世界を少しでも良くするためのきっかけを与え、議論を促し、責任あるデザインで貢献することは可能なのだと思います。